2025年12月24日

最近、咳が止まらない日が続いていませんか?特に夜中や早朝に咳き込んで目が覚める、運動すると息苦しくなる、そんな症状に心当たりがある方もいらっしゃるでしょう。
実は、そのような症状は「喘息」のサインかもしれません。しかし、多くの方が喘息について正しい知識を持っておらず、「単なる風邪」「体調不良」と見過ごしてしまっているのが現状です。
この記事では、喘息とはどのような病気なのか、その症状や原因について、医学的根拠に基づいてわかりやすく解説いたします。厚生労働省の最新データも交えながら、喘息の基礎知識から見分け方まで、詳しくお伝えします。
喘息とは?基本的な定義

喘息(ぜんそく)とは、気道(空気の通り道)に慢性的な炎症が起こり、様々な刺激によって気道が狭くなることで呼吸困難を引き起こす疾患です。
喘息の基本的なメカニズム
慢性的な気道炎症が喘息の根本的な問題です。つまり、喘息患者の気道は常に軽度の炎症状態にあり、健康な人よりも敏感になっています。
この炎症により以下のような変化が起こります:
- 気道の壁が厚くなる
- 粘液の分泌が増える
- 気道周囲の筋肉が収縮しやすくなる
- 気道が狭くなり、空気の通りが悪くなる
日本における喘息の現状
厚生労働省の「患者調査」(令和2年)によると、喘息で継続的な治療を受けている患者数は約117万人とされています。また、全人口に占める喘息患者の割合は約0.9%で、決して珍しい疾患ではありません。
さらに、近年の傾向として成人喘息の患者数が増加しており、環境要因やストレス、アレルギーの増加が背景にあると考えられています。
喘息の種類
喘息は大きく以下のように分類されます:
アレルギー性喘息(外因性喘息):
- 特定のアレルゲンが原因
- ダニ、花粉、ペットの毛、カビなど
- 子どもに多い傾向
非アレルギー性喘息(内因性喘息):
- 明確なアレルゲンが特定できない
- 感染、ストレス、天候変化などが誘因
- 成人に多い傾向
喘息の主要症状
喘息の症状は多様ですが、代表的なものは以下の通りです。
典型的な4つの症状
- 咳(特に夜間・早朝)が最も一般的な症状です:
- 乾いた咳が長期間続く
- 夜間から早朝にかけて悪化
- 運動後や冷たい空気を吸った時に増悪
- 痰を伴う場合もある
息切れ・呼吸困難:
- 階段を上ったり、軽い運動で息が切れる
- 安静にしていても息苦しさを感じる
- 話をするのが困難になることもある
胸の締め付け感:
- 胸が圧迫されるような感覚
- 「胸にバンドを巻かれたような感じ」
- 深く息を吸えない感覚
喘鳴(ぜんめい):
- 呼吸時に「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という音
- 特に息を吐く時に聞こえやすい
- 重症の場合は聴診器なしでも聞こえる
症状の現れ方の特徴
時間的なパターンがあることが重要です:
- 夜間から早朝:症状が最も強く現れる
- 日中:比較的症状が軽い
- 季節性:春や秋など特定の季節に悪化
誘発要因も様々です:
- アレルゲン(ダニ、花粉など)
- 感染症(風邪、インフルエンザ)
- 運動
- ストレス
- 天候の変化
- タバコの煙
- 香料や化学物質
大人と子どもの喘息の違い

年齢によって喘息の症状や特徴には重要な違いがあります。
子どもの喘息の特徴
症状の現れ方:
- アレルギー性喘息が多い
- 喘鳴が比較的はっきり聞こえる
- 発作的な症状が多い
- 夜間の咳き込みで眠れない
原因・誘因:
- ダニ、カビ、ペットの毛などのアレルゲン
- ウイルス感染(特にRSウイルス)
- 運動誘発性喘息も多い
予後の特徴:
- 適切な治療により思春期までに症状が軽快することも多い
- ただし、成人になって再発する場合もある
大人の喘息の特徴
厚生労働省のデータでは、成人喘息患者数は年々増加傾向にあり、特に40歳以降の発症が注目されています。
症状の現れ方:
- 非アレルギー性喘息が多い
- 咳が主症状で喘鳴が少ない場合もある
- 慢性的で持続性の症状
- 重症化しやすい傾向
原因・誘因:
- 職場環境(化学物質、粉塵)
- ストレス
- 感染症
- 薬剤(アスピリンなど)
- 胃食道逆流症との関連
管理の重要性:
- 自然軽快は期待しにくい
- 継続的な治療が必要
- 職業性喘息の可能性も考慮
喘息の原因とメカニズム

喘息の発症には複数の要因が関与しています。
遺伝的要因
家族歴が重要な要因です:
- 親が喘息の場合、子どもの発症リスクは約30%
- 両親ともに喘息の場合、リスクは約75%
- 特定の遺伝子変異との関連も報告されている
アレルギー体質:
- 喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎の合併が多い
- IgE抗体産生能の個人差
- Th2細胞優位の免疫反応
環境要因
アレルゲン:
- 室内:ダニ、カビ、ペットの毛、ゴキブリ
- 屋外:花粉、大気汚染物質
- 職業性:化学物質、金属粉塵、小麦粉など
大気汚染の影響も深刻です:
- PM2.5、オゾン、二酸化窒素
- 自動車排ガス
- 工場からの排出物質
感染症
ウイルス感染が特に重要です:
- 乳幼児期のRSウイルス感染
- インフルエンザウイルス
- ライノウイルス(風邪ウイルス)
細菌感染:
- マイコプラズマ
- 副鼻腔炎を起こす細菌
生活習慣・社会的要因
現代社会特有の要因:
- 清潔すぎる環境(衛生仮説)
- ストレス社会
- 食生活の変化
- 運動不足
他の病気との見分け方

喘息と似た症状を示す疾患があるため、正しい鑑別が重要です。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)との違い
| 項目 | 喘息 | COPD |
|---|---|---|
| 主な原因 | アレルギー、遺伝 | 喫煙 |
| 発症年齢 | 若年~中年 | 中高年以降 |
| 症状の変動 | 時間・季節で変化 | 持続性 |
| 治療反応 | 気管支拡張薬で改善 | 限定的 |
咳喘息との関係
咳喘息は喘息の前段階とも考えられています:
- 喘鳴を伴わない慢性の咳
- 夜間・早朝の咳が特徴
- 気管支拡張薬が有効
- 約30%が典型的喘息に移行
心疾患による息切れ
心不全との鑑別も重要です:
- 労作時の息切れ
- 下肢浮腫の有無
- 胸部X線での心陰影拡大
- BNP(心不全マーカー)の測定
逆流性食道炎との関連
胃食道逆流症(GERD):
- 胃酸の逆流による気道刺激
- 夜間症状の悪化
- 成人喘息の約60-80%で合併
- プロトンポンプ阻害薬で改善
セルフチェック項目

以下の項目で喘息の可能性をチェックしてみましょう。
症状チェックリスト
呼吸器症状:
・夜間や早朝に咳き込んで目が覚める
・運動すると咳や息切れが起こる
・冷たい空気を吸うと咳が出る
・呼吸時に「ヒューヒュー」音がする
・胸の締め付け感がある ・階段などで息切れしやすい
誘発要因:
・花粉の季節に症状が悪化する
・ペットの近くで症状が出る
・掃除をすると咳が出る ・香水や洗剤のにおいで咳が出る
・ストレスを感じると症状が悪化する
・風邪を引くと咳が長引く
時間的パターン:
・症状は時間帯により変化する
・季節により症状に変動がある
・環境により症状が変わる
判定の目安
該当項目が多い場合:
- 5個以上:喘息の可能性が高い
- 3-4個:軽症喘息や咳喘息の可能性
- 1-2個:他の疾患との鑑別が必要
重要な注意点: このチェックリストは目安であり、確定診断には医師の診察が必要です。症状が続く場合は、必ず医療機関を受診してください。
よくある質問(FAQ)

Q1. 喘息は治る病気ですか?
A1. 喘息は適切な治療により良好にコントロールできる疾患です。完全に治癒することは稀ですが、症状をほぼ消失させ、健常人と同じような生活を送ることは十分可能です。特に小児では成長とともに症状が軽快することも多くあります。
Q2. 大人になってから喘息になることはありますか?
A2. はい、大人になってから初めて喘息を発症することは決して珍しくありません。実際に、40歳以降の成人発症喘息は増加傾向にあります。職業環境、ストレス、感染症などが誘因となることが多いです。
Q3. 喘息と風邪はどう見分けますか?
A3. 風邪は通常1-2週間で改善しますが、喘息による咳は数週間から数ヶ月続きます。また、喘息では夜間・早朝の症状悪化、運動や冷気による誘発、季節性の変化などの特徴があります。症状が長引く場合は医療機関で相談してください。
Q4. 家族に喘息患者がいると必ず発症しますか?
A4. 遺伝的要因はありますが、必ずしも発症するわけではありません。親が喘息の場合の子どもの発症リスクは約30%、両親ともに喘息の場合は約75%とされていますが、環境要因や生活習慣によっても大きく左右されます。
Q5. 運動は喘息に良くないのですか?
A5. 適切にコントロールされた喘息であれば、運動は推奨されます。運動により心肺機能が向上し、喘息のコントロール改善にもつながります。ただし、運動誘発性喘息がある場合は、運動前の予防薬使用や運動強度の調整が必要です。
まとめ
喘息は慢性的な気道炎症により、様々な刺激で気道が狭くなる疾患です。主な症状として、夜間・早朝の咳、息切れ、胸の締め付け感、喘鳴があり、これらの症状には時間的・季節的な変動があることが特徴的です。
また、喘息は子どもから大人まで幅広い年齢層で発症し、原因も遺伝的要因から環境要因まで多岐にわたります。他の疾患との鑑別も重要で、正確な診断には医師の診察が欠かせません。
症状が続く場合や、セルフチェックで該当項目が多い場合は、早めに呼吸器内科を受診することをお勧めします。適切な診断と治療により、喘息は良好にコントロールできる疾患です。
この記事の監修医
永松 裕紀 医師
池袋駅前内科・皮膚科クリニック 院長
東京医科大学医学部医学科卒業後、東京医科大学八王子医療センターおよび
国際医療福祉大学三田病院にて、呼吸器外科診療に従事。